電子ピアノをピアノの代替品とした場合の練習

ピアノ(ここではアコースティックピアノのことを表します)を弾くことを目的とした場合、電子ピアノで練習が可能な範囲について、ピアノと電子ピアノの違いという点から考えてみます。

どちらも鍵盤が下がると音が出るという点では全く同じことが起こっているように見えますが、両者では音の出る仕組みという点に関して、大きな違いがあります。

ピアノはグランドピアノもアップライトピアノも、いずれも鍵盤が下がるとハンマーが弦を打ち、それによって振動、つまり音が出るという仕組みになっています。

この時、ピアノから発せられる音には、音高・音色・音量の他に、ピアノから発せられる振動そのものが含まれます。

電子ピアノは、鍵盤が下がるとセンサーが鍵盤の動きを感知して、あらかじめピアノから録音された音(サンプリング音)を、鍵盤の動きに応じた変化をつけ、スピーカーもしくはヘッドホンから再生します。

この時に再生されるピアノから録音された音には、音高・音色・音量は含まれていますが(音高はともかく音色と音量に関しては議論の余地が相当にありますがここではこれらも含まれていると仮定します)、ピアノから発せられる振動そのものは含まれていません。

このように、電子ピアノから再生されるピアノの音というのは、ピアノから発せられる音の一断面に過ぎず、さらにスピーカーもしくはヘッドホンから再生されることによって、そこにはスピーカーもしくはヘッドホンからの振動という、ピアノから発せられる振動とは別の振動が付加されます。

ピアノから発せられる音と電子ピアノから発せられる音には、これだけの差が生じます。

この違いを観察してみて、私は、ピアノを弾いている時には演奏者は新しい音を一音一音その場で作り出している、電子ピアノを弾いている時には演奏者は再生ボタンを押すということと音量つまみを動かすということを同時に行っている、と考えることができるのではないかと思いました。

これは、おそらく私が電子ピアノをピアノの代替品として考えているためにこのような感想が生まれてくるのではないかと思います。

電子ピアノをピアノの代替品と考えずに、それ自体独立した別の楽器として考えるのであれば、電子ピアノもまた、ピアノから録音された音を使って新しい音を生み出していると言うことができるのではないかと思います。

このように、電子ピアノの音がピアノの音とどのように違うのかということを考えてみますと、ピアノを弾くことを目的とした練習を電子ピアノで行う場合、電子ピアノでは何ができるのか、ということが明確になるのではないかと思います。

まず、ピアノから生まれる音と電子ピアノから生まれる音が違う以上、生まれてくる音楽も違ったものになるのは明らかです。

この点を曖昧にしたまま、電子ピアノで練習をしますと、電子ピアノで弾いた場合のイメージが頭の中(心の中)に定着し、ピアノで同じ曲を弾いた場合に、大変な違和感を感じることになります。

そのため、ピアノを弾くことを目的とした場合には、ピアノで弾いた場合にはどのような音楽になるのかということについてのイメージをあらかじめ明確にしておくことが必要になると思います。

電子ピアノを弾く際には、電子ピアノから発せられる音をそのまま受け取るのではなく、頭の中(心の中)でピアノの音をフィードバックしながら弾くことによって、この違和感を少なくすることが可能になるのではないかと思います。

次に、ピアノの練習について考えてみますと、これはピアノから発せられる音を基準として指や足の動作を決定し、その決定した動作を自然にできるようにするために体に定着させるという作業と考えることができます。

このうち、ピアノから発せられる音を基準として指や足の動作を決定する部分には、音が関わってきますので、電子ピアノでこの部分の作業を十分に行うことは難しいかもしれませんが、決定された動作を体に定着させるという作業の部分のみであれば、電子ピアノでも十分に可能ではないかと私は思います。

このように考えてみますと、ピアノを弾くことを目的としているのであれば、頭の中(心の中)に、ピアノを弾いた場合の響きや指の感触、ペダリングの感触に対するイメージが明確に出来上がるまでは、電子ピアノと併用してピアノでの練習も行った方が、より良い結果をもたらしてくれそうです。