ピアノ入門以前 第4号 手の形、指の動作について

2009/08/01

指は伸ばして弾くのが良いとか、指を高く上げて打ち下ろすのは良くないとか鍵盤上での手や指の動作については、様々な意見があります。

ある先生の所では指を立てて力強く弾くように言われ、別の先生の所では指の腹でやさしく鍵盤に触れて弾くように言われる、という具合に、先生によっても、様々な見解があります。

このように様々な意見があると「本当のところはどれが正しいのか?」と首を傾げてしまいたくなるのですが、これは、どれもが正しくて、どれもが間違っている、と言うことができるのではないか、というのが私の見解です。

このような意見に関して、私が感じますのは、それによってピアノから得ようとしている響きがどのようなものなのか、どのような演奏を行いたいのか、という視点が見落とされているのではないかということです。

指を立てて力強く弾くのと、指の腹でやさしく鍵盤に触れて弾くのとでは、ピアノから得られる響きが全く異なります。

そして、これはどちらが良いとか悪いとか言う問題ではなく、ピアノから得ようとしている響きによって、使い分けられる必要があるのではないでしょうか。

力強い響きが必要であれば、そのような響きを得ることが可能な奏法が必要ですし、やわらかい響きが必要な場合も同様です。

このように、鍵盤上での手や指の動作は、ピアノから得られる響きと結びついていますので、鍵盤上での手や指の動作のみを取り上げて、正しいとか間違っているということはできないのではないかということを思います。

また、演奏者によって、手の大きさ、それぞれの指の長さ、各指のバランスなど、身体的条件が大変異なりますので、ある人にとって弾きやすい手の形が、他の人にとっても弾きやすいとは限らないのではないかということを思います。

演奏者それぞれの日常における手の使い方によって、手の癖も異なりますし、動かしやすい指と動かしにくい指も異なります。

ですから、万人に共通する唯一絶対のピアノを弾きやすい手の形というのは無いのではないか、ということを思います。

ピアノを弾く場合、ピアノという楽器と、身体という2つの物理的制約がありますので、鍵盤の構造や音の出る仕組み、身体の構造に沿わない鍵盤上での手や指の動作に関しては、間違っているということは可能かもしれません。

しかし、物理的制約に反しない範囲内であれば、弾く人それぞれの鍵盤上での動作、弾きやすい手の形があって良いのではないでしょうか。

指を伸ばして弾くという弾き方の代表格として挙げられるホロヴィッツが演奏している映像を見ていますと、パッセージによっては極端に指を内側に曲げて弾くなど、表現に応じて手の形を変化させながら弾いているのがわかります。

これは、何か一つの正しい動作があるのではなく、表現に応じて様々な動作がある、ということではないでしょうか。

さらに、響きの側から動作を考えるのではなく、様々な動作を試していく中で自分にとっての新しい響きを発掘するということも可能ではないかということも思います。

ある動作を正しい、ある動作を間違っている、としてしまうと、自分にとっての新しい響きと出会うチャンスそのものが無くなってしまい、表現の幅を狭めてしまう結果となってしまうのではないかということを思います。

このように、鍵盤上での手や指の動作・形などは、それのみで検討されるのではなく、物理的制約の面、響きの面、演奏内容の面など、様々な方向から多角的に検討された上で判断される必要があるのではないでしょうか。

なお、ピアノが弾きにくい、思うように指が動かない、という場合に考えられる可能性の一つとして、物理的制約に反する動作をしている、というものが考えられます。

このような場合は、ピアノの物理的構造や、人間の体、特に腕、手、指といったものの物理的構造を理解し、そこから自分にとって最も基本となる鍵盤上での動作を組み立てていく必要があるのではないかと思います。

身体の物理的構造に反する動作の問題点は、単にピアノが弾きにくくなるだけではなく、故障などの原因となる恐れがあるところです。

以下の書籍が参考となりますので、ご一読されることをおすすめいたします。

書名:ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと
著者:トーマス・マーク ロバータ・ゲイリー トム・マイルズ
監訳:小野ひとみ 訳:古屋晋一
出版社:春秋社
ISBN-10:4393935055

※「ピアノ入門以前」は、だいすピアノ教習所講師の かとうだいすけ が2009年6月から2011年5月まで、まぐまぐにて配信したメールマガジンです。2011年5月に廃刊しました。