デジタルが浮き彫りにしたピアノの魅力

アコースティックピアノと電子ピアノの違いについてあれこれと考えているうちに、では、ピアノプレーヤーはどうなのか?という疑問に行き当たりました。

私は、自分なりの結論として、アコースティックピアノは自ら新しい音を生み出している、電子ピアノは録音された音を再生しているだけ、という考えを文章にしました(参照:情操教育と電子ピアノ)が、アコースティックピアノをピアノプレーヤーという電子機器が演奏する場合はどうなるのでしょう。

学生時代、ピアノ指導法という科目の中で、ピアノプレーヤーをレッスンに活用するという内容の授業があったのですが、この時、指導教官のT・M助教授(1997年当時)がピアノプレーヤーを搭載した、ピアノはYAMAHAのC3だったと記憶していますが、そのピアノを私たち学生の目の前で演奏しながらその演奏をピアノプレーヤーに記録し、記録したものを再生するということを行いました。

その時、私はピアノプレーヤーから再生された演奏に対して「何だかよくわからないけど、違和感があるなあ。どこか薄っぺらいというか硬いというか・・・」という感想を持ったことを記憶しています。

これは、T・M助教授の演奏が薄っぺらかったり、硬かったりしたわけではありません。

ピアノプレーヤーによる再生も、あのように集中した状態ではなく、何気なく聴いただけであれば、このような違和感は感じなかったかもしれません。

しかし、表面上はそっくりなのに、何が自分の中で引っかかったのか。

当時は違和感があるなあで私の中では終わってしまいましたが、今改めて考えてみると、この違和感の違いは、アナログとデジタルの違いによるものではないかという気がしてきました。

なお、ここでのアナログとデジタルの違いについての説明は割愛します。

さて、私は、ピアノプレーヤーは鍵盤の下がるタイミングやスピードを記録してそれを再生しているのではないかと想像しています。

これが、仮に私の想像通りだとするならば、人間が弾いた際のある音の鍵盤が下がるスピードが、仮に9.0129384910398581930498301290329038947894389490320130449202890...mm/sだった場合、ピアノプレーヤーの側では、これを9.01294とか、何かそのような数値として記録しているのではないかと想像されます。(Wikipediaのデジタルの項目には『データの数値化にあたっては量子化を行い』という記述がありますので、私はピアノプレーヤーの中でこれが行れているのではないかと考えたわけです。)

この場合には、次の音が9.0129484910398581930498301290329038947894389490320130449202890...mm/sだった場合、ピアノプレーヤーの側では、これを9.01295とか、何かそのような数値として記録されるということになります。

一見、小数点5桁とか6桁の微細な違いくらいどうってことのない違いのように見えますが、これが連続して行われると、例えば生演奏でつながって聴こえていたフレーズが、どことなくギクシャクして聴こえてきます。

これは、パソコンのディスプレイ上では、どんなに滑らかに見える曲線も、拡大するとギザギザになっているというのと同様ではないかと思います。

このように考えてみますと、私がピアノプレーヤーから再生された演奏に対して感じた違和感というのは、この違いから生まれてきたものなのかもしれません。

ここで私は、だからアナログは良い、デジタルはダメだということが言いたいのではなく、それぞれの長所や短所を理解して活用すればそれで良いのではないかと思うのですが、デジタルという技術がピアノに持ち込まれることによって、ピアノ本来の魅力がどこにあるのかということに一歩近づくことができたように感じています。

20世紀初頭にピアノロールというピアノプレーヤーの前身のような機械が存在したのですが、当時、ピアノロールに記録をしたピアニストに師事したことのあるピアニストが、このピアノロールによる再生を聴いたところ、これは○○の演奏ではない(ピアニストの名前を忘れてしまいました)、○○はこんな冷たい音を出さないと語った、という記事を音楽雑誌か何かで読んだ記憶があります。

ピアノロールによる演奏は、現在CDに録音されたものが市販されており、手軽に聴くことができるのですが、私はそれを聴いてみて違和感を感じた覚えがあります。

わかるのは、そのピアニストのテンポ、間の取り方、ペダリング程度で、音色に関しては誰の演奏でも同じ音色に聴こえてきます。

もしかしたら、テンポや間の取り方、ペダリングに関しても、デジタルで言うところの量子化が行われていて、あまり正確ではないのかもしれませんが、このような問題も、上記のような理由と関係がありそうです。

ピアノそのものは、弦楽器や管楽器、人間の声などと比較しますと、それぞれの音が鍵盤によって明確に区別されているという意味で、極めてデジタルな楽器です。

その、一見デジタルな楽器の中に、極めてアナログな部分が含まれている、つまり、デジタルとアナログの融合とでも表現することができそうな要素がピアノにはあって、それがピアノにとっての魅力の一つではないかという気がしてきます。

また、CDで聴く演奏と、生演奏の違いも、このようなところにあるのではないかと思います。

以前、私の友人が「最近はピアノを習っている人がコンサートに行かなくなった。どうすればみんなコンサートに行ってくれるんだろう」と嘆いていましたが、生演奏の雰囲気は違う!というような抽象的な言葉でコンサートへ行くことを推奨するのではなく、上記のようなアナログとデジタルの違いを説明した上で推奨したならば、もしかしたらみんなコンサートに行ってくれるようになるのかもしれない、ということを思いました。