情操教育と電子ピアノ

情操教育にピアノを使うのであれば、アコースティックピアノが良い。

誰もが頭では何となくはわかっていることですが、なぜアコースティックピアノなのか、電子ピアノだとどのような問題があるのか、ということに関しての明確な意見がなく、さらには、価格や住宅環境の問題も手伝って、電子ピアノに落ち着くというのが昨今の現状ではないかと推測しています。

しかし、情操教育の本来の意味から考えるならば、私は可能であるならばアコースティックピアノを用意するべきだと思います。

グランドピアノを用意する必要はありません。

小型のアップライトピアノで十分です。

なぜ、それほどまでにアコースティックピアノをおすすめするのかというと、それは、アコースティックピアノと電子ピアノでは音の出るしくみが全く異なり、私はこのことが情操教育と大きく関係していると感じるからです。

アコースティックピアノは、鍵盤が下がるとハンマーが連動して動いて弦を叩きます。

この時、弦が振動し、弦の下にある響板が、弦からの振動を増幅させます。

このようにして音が鳴ります。

この時、弦から発せられた振動は、楽器全体に広がり、そこからさらに床や壁に伝わっていきます。

演奏者の体にも、この振動が伝わってきます。

アコースティックピアノの音は、耳だけではなく、人間の体全体に振動として伝わってくるのです。

対する電子ピアノは、鍵盤が下がるとピアノの音をデジタル録音したものがスピーカーまたはヘッドホンを通して再生されます。

この時、アコースティックピアノから発せられるような振動は発生しません。

つまり、アコースティックピアノはその場で音を作り出しているのに対して、電子ピアノは録音された音を再生しているだけということになります。

表向きは、アコースティックピアノも電子ピアノも鍵盤を下げると音が鳴り減衰した後消える、もしくは鍵盤が上がると消えるだけのように見えます。

しかし、実際には、アコースティックピアノの場合は自分の指が鍵盤を下げることによって新しい音が生まれ、そして消えていくというプロセスを体験しているのに対して、電子ピアノは録音された音の再生ボタンを押しているに過ぎません。

このように考えてみますと、作り出すという感覚と、ボタンを押すという感覚のどちらを養っていかなければいけないのかは明らかです。

昨今の偽装問題を考えてみても、これからの子供が養うべきは、表向きは同じように見えていても、中身は全く違うということを肌で感じることができるようになる感覚ではないかと思います。

そのためには、まず、本物を知ることが大切ではないかと思います。

住宅事情、経済的事情でアコースティックピアノが用意できないということであれば、今日ではアコースティックピアノの貸練習室がたくさんありますから、そのようなところへ週に1回でもいいので子供を連れて行ってアコースティックピアノを弾かせるなど、手間を惜しまなければ、自宅にアコースティックピアノを用意しなくても、情操教育はいくらでも可能だと思います。

私は必ずしも電子ピアノ否定派ではなく、電子ピアノは練習用代替楽器としては非常に優れていると思います。

私自身、電子ピアノに少なからず助けてもらっています。

大人の場合は、アコースティックピアノと電子ピアノの違いを理解して、その違いを頭の中でシミュレーションしながら電子ピアノで練習をするということが可能ですので、全くの初心者が自宅の練習用に電子ピアノを用意するのは何も問題がないと思います。

むしろ、続くか続かないかわからない状態でアコースティックピアノを購入するのは、続かなくなったときのことを考えると、非常にリスクの高い選択ではないかと思います。

しかし、子供に大人と同じように頭の中でシミュレーションを行うことを要求するのは無理があると思います。

ピアノを子供の情操教育の手段として利用するのであれば、プロになるとか、音大に進むといったこととは関係なく、情操教育のための教材と割り切ってアコースティックピアノを用意した方が良いのではないか、と私は思います。