うちの子は一つも間違えずに弾いたのに落ちた。よその子はいくつか間違ったのに受かった。なぜか?

コンクールの結果に関して、「うちの子は一つも間違えずに弾いたのに落ちた。よその子はいくつか間違ったのに受かった。なぜか?」という言葉を耳にすることがあります。

この問題に関しては、様々な要因があるため、明確な回答を出すことは大変難しいことで、決定的な回答を出すことはおそらく不可能ではないかと思われます。

しかし、「好み」とか「運」、「才能」といった対策をすることが不可能な要因以外にも、ある程度までなら対策を行うことが可能ではないかと思われる要因について、ある一定の方向性を持った回答を行うことはどうにか可能ではないかということを思いました。

ここでは、演奏をどのように捉えるのか、という視点から、この問題について考えてみたいと思います。

演奏という目で見て判断することが難しいものにとって、音やリズム、強弱に関する正誤は、ある程度まで数値化したり可視化したりすることが可能ですので、わかりやすい判断材料となります。

しかし、演奏はこれらだけで成り立っているわけではありません。

ピアノから発せられる一つ一つの響き、それらの響きの組み合わせ方、聴く人が思わず体でリズムを感じてしまうようなリズム感、曲の構成など、数値化や可視化をすることが不可能な要素も多数含まれています。

これらの要素が複雑に絡み合い組み合わさって、演奏が成り立っています。

これをわかりやすく説明するために、図を用意しました。

まず、図1をご覧ください。

図1

図1ではX軸とY軸で構成される座標上に、整った形で点が並んでいます。

図1のみを見ますと、整っているように見えます。

ここで図2をご覧ください。

図2

図2ではX軸とZ軸で構成される座標上に、バラバラに点が並んでいます。

さらに図3をご覧ください。

図3

図3ではY軸とZ軸で構成される座標上に、図2とは異なる配置でバラバラに点が並んでいます。

このように、図1の面から見ると整っているように見える点も、図2や図3の面から見るとバラバラになっていますと、これらの3つの面を組み合わせても何かしらの形にはならない、ということがわかります。

そして、魅力的な演奏、評価される演奏というのは、どの面から見ても、ある一定の整った形で点が並び、それぞれの面を組み合わせると一つの形を形成するのではないか、というのが、私の考えです。

間違えずに弾いたのに落ちたというのは、図1の面から見ると完全に整っていても、図2や図3の面、つまりピアノから発せられる響きの良し悪しや、響きの組み合わせ方、リズム感など、数値化や可視化をすることが不可能な要素に関して、整っていなかった、もしくは整っていたとしても他の面との関連性が薄いなど、全体として何かしらの形を形成していなかったのではないか、ということが考えられます。

反対に、間違ったのに受かったというのは、次のように考えることができるのではないかと思います。

まず、図1の面のみ取り上げて見ますと、間違えずに弾いた方と比較して完全性という点では劣ります。

しかし、図2や図3の面から見ても整っていて、いずれの面も他の面との関連性があり、3つの面を組み合わせると全体として何かしらの形を形成するに至る演奏であった、ということが考えられます。

演奏は、3本の軸や面で判断できるほど単純なものではありませんが、ここでは演奏を立体的に捉えるということに関して説明するために、便宜上このような方法を使用してみました。

このように考えてみますと、演奏は音やリズムの正誤のみで判断されるような平面的なものではなく、様々な要素によって構成されている立体的なものと考えることができるのではないでしょうか。

そして、このような視点に立って演奏を見ることで、冒頭の問題に対しても、一定の方向性を持った回答を出すことが可能なのではないでしょうか。

注意:上記の説明は、いずれも説明のために便宜上用いた比ゆ的なものであり、実際のコンクールでこのような図をもとにして評価が行われているわけではありません。また、X軸Y軸Z軸に対するここでの引用方法が数学的に適切ではない可能性があります。説明のために、あくまでも便宜上用いただけであるということをご理解ください。